月に村雲、花には嵐 - 19
耳を澄ませたら、間近で不思議な音が聞こえて、ロイは目を覚ました。
瞼を閉じた少女が、目を覚ましたロイのすぐ隣で、すうすうと立てているそれは寝息だった。
当然だが、同じ布団で寝たことはなかった。
はだけた毛布から白い胸元が見えそうになっていて、黙ってロイは毛布を引き上げる。
小さいくしゃみに苦笑すると手を伸ばして抱きしめた。
「……ん」
目を覚ますまでには至らなかったらしい。ほんの少し瞼が開いて、またすぐに閉じる。
暖を取るためにか、無意識に擦り寄る身体が愛しかった。
服を着せてやることは可能なのに、触れれば素肌なのが嬉しくて、一糸まとわぬ彼女の肌を堪能する。
初日からあまり無理はさせられないから、このまま次を行うつもりは今のところはなく、こうして髪を梳いているだけでも充分満足だ。
やっと、手に入れた身体だ。
痛みに耐えて、気持ちいいよりまだ痛みの方が強いだろうに、必死で耐える少女には不謹慎だが愛しさを止められなかった。
(長かった………)
最初に好きになってから、こうしてつきあうようになって、散々拒絶されて殴られて、浮気していいと言われて、そこまで嫌がられた行為をやっとだ。
今までは側にいてくれるかどうか不安で仕方なかった。
いつか別れを切り出されるんじゃないかと怯えて、挙げ句の果てに自分から別れを切り出して。
「幻滅、か……」
馬鹿馬鹿しいことを考えたものだと溜息。
いや、考えるようにさせてしまったのは、自分なのか。
女性として生きて、まだ一年しか経ってないと知っていたのに、こういうことまでは想像していなかった己の気のきかなさに歯がみする。
(休みを取って正解だったか)
突然の休暇を申請したロイに、ホークアイは数秒ロイを見つめると
「そうですね、そろそろ限界だなと思っていましたから」
と、あっさり納得した。
あの時は、何のことか分からなかったが、多分彼女はエドワードの気持ちなど知っていたのだろう。ひょっとしたら相談を受けていたのかも知れない。
問い詰めたとて教えてはくれなかっただろうから、今更言っても詮無きことだが、やっぱり自分はあの副官には永遠に勝てる気がしない。
時計はまだ、朝になったばかり。
目が覚めて、ご飯を食べて暫くしたら又。
軽く触れたら怒るかな、と腕の中の小鳥に懇願のキスを送った。
(続く)
