黒の祭壇

黒の祭壇

> TEXT > ロイエド > 長編 > 桜花の境 > 4

4(連載中)

 端の方で威嚇している子供達に、困ったように頭を掻く男。
「君が、寝たまま手を伸ばして何かを探しているようだったから、弟を渡してやったんだがね。感謝されるならともかく、警戒されるいわれはないと思うが」
「………」
 アンタ誰、なんでここにいるの、何者。
 とりあえず浮かんだのは三つ。だが発言する気力はなかった。
 疲れたとかそういうのではなく、大人が正直に発言するかどうかが分からないからだ。だから人の言葉は信じない。それよりよっぽど瞳の方が正直だ。
 エドワードはその直感通りに男の眦をひたと見据えたが、その猜疑心露わな視線は男にとっては不快らしい。
 やれやれと言うと、男はあぐらを組んだ状態から立ち上がろうとして……なにを思ったかやめた。
「この部屋は待合室。私は将軍のお供でここに来ている。将軍が上でよろしくやっている間ただ待ってるだけだ。この部屋はそういう人間が、自分の上司や主人が帰ってくるまで暇を潰しながら待つ部屋で、君を一人にさせるのは忍びないが、仕事があって動けないこの館の女性達から、どうせ待ってるなら側で様子を見てやってくれと頼まれた。危害を加える気はないから、とりあえず座りたまえ」
 ちょいちょいと床を指さされると、応じてアルフォンスを抱く腕の力が強まった。
 信じていいものかどうか分からない。
 だが男の瞳はエドワードの経験では嘘を言っていない。
 
「――――君、私の言葉が信じられなくてもいいが、自分の勘は信じたまえ」
「…………え?」
 
 言葉を紡ぐ気などなかったのに、男の台詞が以外で、つい口から漏れた。
「そんな赤ん坊を抱えて、今までどうやってきたのかしらんが、よく生きてきたと思うよ。君が寝ている間にそのかわいい弟を観察させてもらったが実に血色がいいね。君と正反対だ。どんな犠牲を払ってその赤子を育てたのか、もうそれだけでわかる。……君は、強い。そして賢い」
「――――――――――」
 
 身の内を突風が吹き抜けて、落雷があったらしい。
 彼の言葉はその衝撃でエドワードの中で石になった。重くて持ち出せそうにない。
「否が応でもその能力を身につけざるをえなかったのかもしれないが、ここまで生きてこられただけで分かることがある。君の、人を見る目は間違わない。その綺麗な瞳で判断すればいい。……あ、でも」
 それでも、やっぱり信用に値しない奴と見なされたら少し傷つくな、と全く傷なんてつきそうにないくせに笑って。
 男は又本に目を戻した。
 

(終わり)