黒の祭壇

黒の祭壇

> TEXT > ロイエド > 短編 > 梅雨のおはなし > 1

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 雨は一週間近く降り続いており、特に今日の雨は凄かった。
 少し大きい声で喋らないと、相手に聞こえないのではないかと思うほどの豪雨。
 この手の雨はそんなに長いこと続かないのであと1時間もしない間に普通の雨に戻るのだろうけれども。

 ベッドに俯せに寝転がって本を読みながら足をぱたぱたと動かしているエドワードに近づいて、ぺたりとその白い背中に手を当てたら、彼の耳がぴくりと動いた。
 おそるおそる見上げる瞳。
 爽やかに微笑むロイとは裏腹に、その表情はうんざりしたものになっている。

「……なに?」

 と、疑問を交えつつも多分予想しているんだろうなあ、と直感。つつ、と背中を撫で上げれば、一瞬針に刺されたみたいな顔をした彼の唇から声が漏れた。

「やだ、しねえったら」
「君はいつもそう言う」

 どうせ最初だけなので、はいはいと流しながら邪魔な本をエドワードの手の届かないところに持っていけば、あ!と噛み付かんばかりに叫ばれて、手が伸びた。
 ころりと仰向けにしてとりあえずキスでもしようかなとのしかかれば、渾身の力で彼はそのロイの顔を押し戻す。

「やだって!」
「なぜだね。シャワーも浴びたし、別に汚れていないぞ」

 明日も休みだし。だいたい君がそんな薄着なのが悪い。もうすぐ夏だから暑いのは分かるが。

「この雨では、外に出かける気にもなれないだろう」
「その雨が嫌なの!」
「………へ?」
「あんたが無能になる雨が嫌!」
「――――――――――それは」
 嬉しいことを言ってくれるなあ、としつこい彼の両手首をがっしり捉えてしまえば、あ、とエドワードは一瞬赤くなった。

「…じゃなくて!」
 唇を塞ぐ事は今は諦めて、首筋にしてみることにする。喉仏にも噛み付きたい衝動を押さえつつ堪能していると、未だに彼は掴まれた腕をなんとか離そうとしつこい抵抗をしていた。
 ベッドの中では一年中有能なつもりなんだが。

「雨降ってるときは嫌だって!」
「………?」
 意味不明な理由に、思わず彼の身体から身を起こした。

 警戒心丸出しの小兎はふうふうと荒い息を吐いている。
「ここ、一週間近く雨だし…」
「まあ、梅雨だからな」

 でも、それとこれと何の関係が。

 ついつい安心して拘束していた腕を解けば、それはぽてん、とベッドの上に落ちた。
「洗濯できねえからやだ」
「――――――――――は?」

 多分ロイは思いっきり呆れた顔をしたのだろう、エドワードはやっぱり怪獣みたいにぎゃあぎゃあ暴れた。
「シーツ洗濯できねえからやだ!」
「………太陽が、出ないから、か?」
「そうだよ。どうせなら太陽の光で干したいじゃねえか、あんなことした後は特に」

 そういえば、毎回シーツは洗濯していたが、ロイがするのは洗濯機に突っ込んで廻すまでで、実際に干すのは彼の時が多いなあと思う。

「そんなの」
「俺の錬金術はあんなもん乾かすためにあるんじゃねえ!」

 心なしかその顔は赤く、ああ、想像してしまうんだろうな、と思った。

「…じゃあ」
「…あんたの錬金術もそんなことのためにあるんじゃねえ」

 言う前に却下された。

……とは言っても。

「鋼の、では私は梅雨が明けるまで我慢しろと言うのかね」
「あんたは普段我慢がたりねぇから丁度いいじゃん」

 …そうか?
 素晴らしく我慢強いと思うんだが。
 こんな気まぐれな恋人相手に遠距離恋愛を何年も続けてきただけで誉めて欲しいんだが。
 身体を取り戻してからやっと一緒に住んでくれるようになったが、ただでさえ仕事が忙しくあまり二人でのんびり過ごす時間など、ないというのに。
 実に理不尽そうな顔をしたロイに気がついたらしいエドワードは、このままでは男が納得しないと分かったらしい。

「…そのかわり、梅雨が明けたら好きなだけしていいからさ」

 そうして、顔を真っ赤にして目を背けられれば。
 不本意ながらも数週間後の楽園のためならば、とそっとエドワードの身体から手を離すのだった。

 やっぱり、我慢強い、と思いながら。

(終わり)