黒の祭壇

黒の祭壇

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69(連載中)


 自室の二階の窓から外を眺めてみる。
 夜になるとこの一帯は急に賑やかになる。男の人が増え、客引きの女性や業者らしい男性が荷物を持って行き交う。街灯は蛍のようなぼんやりとした光を作り出して、綺麗な影を作る。
 店に入ることが出来ない男性は、うろうろと前を動き回るばかりだったり、後は、見るからに金持ちそうな軍人が取り巻きを引き連れてやってきたり。
 ああしてロイも無理矢理上司のおっさんに連れてこられていたよな、と昔を懐かしむ。
 こんな宿に引き取られておきながら、あの当時は、夜一緒に過ごすという意味を分かっていなかった子供の頃。
 まさか、あの時知り合った男と数年後にあんなことになるとは思ってもいなかった。
「うう……」
 思い出す度に、顔を氷水に突っ込みたくなる。
 何年も会えなかった頃は、一目会えればいいと思っていたのに、一度会えばこの通り。又会いたくてたまらなくなっている。
 一回会えればよかったんじゃないのか、俺の嘘つき。
 もし俺の願いを神様とやらが叶えたんだったら、今頃呆れてるに違いない。やっぱり人間なんて、嘘つきで貪欲だと。
「来るわけ……ないよな」
 未練がましい自分を断ち切るために、窓を閉めて、床に寝転がった。


 窓が閉まると、外の喧噪は一気に消えてしまう。お客さんに恋をしてしまった姉ちゃんはたくさん見てきたけど、彼らが来なくなったときにこんな気持ちになったのか。今まで慰めていたけど、本気で分かってなんかいなかったんだ。
 それでも、再会しなければよかったとは思わない。
 戦争から戻ってきた、なんて新聞の記事だけでは、本当に奴がいるのかどうか、実感がわかなかった。
 でも喋って、触れて、あの時間は無駄だったわけじゃないと今なら言い切れる。



「エド、いる?」
 そろそろ仕事に戻ろうかと立ち上がった瞬間、部屋の前から声がかかった。
 襖を開ける前に、待ちきれなかったのか、勝手に扉は開いていく。
「セルシア姉ちゃん」
「き、来たわ。マスタング中将………」
 どうしてだか、苦々しげに、彼女は襖に手を当てて、呟いた。
 そのらしくない仕草に違和感。
 ロイが来て喜んだ一瞬の浮かれはすぐに消えた。
「……なんか、あったの」
 いつもなら、来たわよ-! と大喜びで俺を呼びに来るはずなのに、彼女はどうにも言いにくそうで。
「来たんだけど……女連れなの……」
「へ?」
 酷く不満そうに、セルシア姉ちゃんは呟いた。
 


 この店に来る人間は限られる。
 その一、業者さん。
 その二、従業員の親族。
 その三、新しい従業員。
 その四、客の親族。
 
 四の場合はだいたい怒鳴り込みだ。無理矢理こちらが相手を連れ込んだわけでもないのに、夫を出せ、と喚かれる。
 それ以外は特に揉めることはない。
 速やかに用事が済んだらお帰りいただく。
 だから、軍人が女性を連れてくるという理由がどんなに考えても浮かばず、エドワードは結局結論のでないまま、玄関までやってきた。
「やあ、エド。久しぶりだな」
「……おっさん」
 一ヶ月ぶりの再会に、情けないことに心が浮き立つ。十年近く前と違って、年を重ねるごとに精悍になった立ち姿。青い軍服を着た男は、いつも見惚れるほどに格好良かった。
 ……隣に若くてかわいい女がいても。

(終わり)