3(連載中)
「――――――――――さて、どういうことか説明して貰おうかハボック」
「なんでそこで発火布はめるんですか!」
怖い。マジ怖い。
休憩が終わっても帰ってこなかったハボックに痺れを切らしたのか、大将の報告書で彼がここにいることを知って探し回ったのかは知らないが、扉を開けて、エドワードが膝の上に載っている状態の俺を見た大佐は、それこそ夜叉のような顔をした。
ように、俺には見えた。
そして、別室にハボックだけ強制的に召還を受け、びくびくと部屋に入った途端に、これだ。
パチン、と軽く指を鳴らす音。
その一秒後に、目の前のカーテンが火を噴いた。
「おかしいな、加減が出来ないぞ」
「いや、ちょっと、待ってくださいよ!!!」
部屋の隅に追いやられるが、大佐は容赦せずかつかつと軍靴を慣らして近寄ってくる。普段なら颯爽としていて格好いいんだよなあ、悔しいけど、なんて思っているが今はそれが死神にしか見えない。
だって、何が怖いかって。
「なんで鋼のがおまえの膝の上で寝てるんだ?」
この、凶悪なまでの笑顔だろう。
ぱちぱちとカーテンが焼ける音が左からする。消さなくていいのか、消さなくて。
「い、いいじゃないですか!」
本当は、全て喋ってしまいたい衝動に駆られたが、それでもこういう言葉を選んだ俺を誉めて欲しい。
「…ほお」
刹那、己の足下が突然赤くなった。
「――――――――――ぎゃー!」
足下のカーペットが火を噴いている、と気がついたのは数秒後。
じりじりと焦げる靴を逃がそうと、床の上でばたばたと足を動かす。
「上司に隠し事とはいい度胸だな」
「熱い!熱いですよ!」
「言えば、熱くなくなるぞ」
「いや、それは!」
まずい、足の裏が火傷っぽくなっきた。このまま一分もしないで水ぶくれだ多分。
「大将が!大将がああして膝抱っこして欲しいって、言うからですよ」
「――――――――――」
正直に答えたはずなのに、大佐の気配が物騒な物に変化した。凍結された笑顔の中に、俺は世界の終末を見る。
世界を震撼させる怪物が世に現れたとしたら、きっとそれは大佐の姿をしていると思った。
「鋼のが、膝抱っこを、…おまえに、せがむだと?」
「す、数ヶ月前から時々」
震え上がるような冷酷な声色に、本能が逃走を選択するが、身体が動かない。つばを飲み込む一秒が、一分に思えた。
「…初めてじゃないのか」
「もう何回も膝抱っこしてますよ!だってあっちから擦り寄ってくるんだから仕方ないでしょうが!」
「――――――――――」
やっぱり熱さに耐えながら正直に答えたのに、大佐の気配がますます有毒になった。
身体が震えているのは熱さではなく、身を焦がす目の前の男から噴出されている怒気による。
…死ぬかも。
本気で殺されるかも!
そのくらい微笑む大佐の顔は邪悪で。
気配が滲ませる物は殺意と言っても差し支えのないほどの悪気で。
「…詳しく聞かせて貰おうか?」
こくこくと頷く以外に、ハボックに生き残る道は残されていなかった。
(終わり)
