黒の祭壇

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75(連載中)


「ごめんね、エド。だましてて」

 魂が抜けたような顔をしているハクロを連れて、ハボックが出て行った後、静まりかえった部屋で、ウィンリィは、両手を叩いて俺に謝った。
 俺はと言えば未だ呆然としたままだ。
「……なんで。普通に名乗ってくれたらよかったじゃねえか」
 狙われてるなんていうから、一応彼女を一人で外には出さないようにして、目の届くところにいてもらうようにしたりとか、この二週間けっこう気を遣ったのだ。
 明るくてかわいくて気の強い少女は、実にエドの好みではあったから辛くはなかったが、俺だけ仲間はずれになっていた感は否めない。
 ロイとウィンリィが仲間のように顔を見合わせるのも実はいらっとして、自分の心の狭さに泣きたくなる。
「彼女が言い出したことなんだ。ハクロがこの店の経営権を持っていると聞いて、私はウィンリィ嬢に権利を譲りたいと思っていたのだが、彼女が嫌がった。自分には経営なんて出来ない。それにこのような店自体好きではない、と。まあ女性なら当然の言葉だな」
「……そう、だよな」
 言われて、始めて気がついた。
 そうだ、俺たちは彼女が見つかりさえすれば、全てが解決したような気分になっていたが、そんなはずはない。男性ならともかく、女性がこの経営者になるということが、珍しいのだ。
 ばっちゃんは元々はこの店で働いていたといっていたから、普通かもしれないが、彼女はそんな環境とは無縁で育っている。嫌悪感だけがあっても仕方がなかった。
「だから私、経営権をハクロから奪ってくれってマスタングさんに言われても、最初はいやだったの。私がやるよりは、ハクロおじさんがやっててうまくいってるんならそれでいいんじゃないかって」
「……あいつがオーナーでうまく言っているはずがないと思ったがな私は」
 ロイは何故かふてくされたように言う。
「でも、マスタングさんも、ハボックさんも、今は酷い状態で、あのままおじさんに任せていたら、店はダメになるっていうから、だから、本当はどんな店なのか、暫くお邪魔して見てみようと思ったの。それでマスタングさんに頼んで……」
 彼女は、誤解されたくないのか、必死に心を伝えてくる。微かな罪悪感がその素振りには見えた。なんだか脱力する。
「偽名使って、二週間か。……俺たち、観察されてたんだな」
「だからごめんってエド!」
 またまた彼女は両手を合わせる。
 エドワードは溜息を吐いた。

「もういいよ。実際ウィンリィの言うとおりだよな。いきなり知らない店のこと押しつけられても、困るだけだ。俺たち、この店を何とかすることに必死で、そこまで考えてなかった」
 ウィンリィが、引き受けてくれるかどうかの説得なんて、考えてなかった自分の落ち度だ。
 彼女は、すぐに断ることも出来たのに、こうしてここに来て、店を見てくれた。それは、彼女が俺たちのことを考えてくれた証拠だ。会ったこともない、俺たちの事を。
「それで、ウィンリィ・ロックベル。君はどうすることに決めたんだね? 正当な権利はハクロよりは君だ。君が現れた時点で、君の意志次第では、状況はいくらでも覆る」
 ロイの言葉に、さすがにエドワードも緊張した。
 ――そう、彼女が一言、今のままで言いい、と言ったら、状況は変わらないどころか、最悪になる。あの男が金を吸い上げ続ける日々が、続く上に終わらないのだ。孫娘を捜すという最後の案が絶たれた今、エドワード達に回避策はない。
 ウィンリィは、俺とロイの視線を一心に受けて、なぜかふふん、と自信ありげに笑った。
「あら、言うまでもないでしょ。分かってる癖に」

 ――そして、彼女は、数年間、エドワードが一番欲しかった台詞を、言った。

(終わり)