夏祭り
「太鼓を叩いてみるか?坊主」
無理矢理浴衣を着せて、無理矢理連れてきた夏祭りで。
最初はぶつぶつ言っていたくせに、結局それなりにロイの隣で林檎飴食べたり金魚すくったりして楽しんでいたエドワードを攫っていったのは櫓の上で太鼓を叩いていた中年の男だった。
好奇心旺盛な彼はロイに確認を取ることもなく目を輝かせてひょいひょいと櫓に向かっていき、先ほどから教えて貰いながら嬉々として太鼓をなんだか叩いている。
それを憮然と下から眺めているロイのことは多分眼中には全く入っていない。
久しぶりに年相応の顔して、祭りを楽しんでいる姿はそりゃあまあかわいいんだけども。
数分後、やぐらから降りて来たエドワードの腕を引き寄せると彼の楽しげな顔が一瞬にして驚愕に変わる。
肩まで引き上げられている浴衣をぐいっと引き下ろすと元は一枚のそれは簡単に彼の両腕を隠した。
「…大佐、なんか機嫌悪い?」
「悪いよ」
あっさり返したらエドワードは首を傾げて数秒後に、ああ。と手を叩いた。
「大佐も太鼓叩かせてもらったらいいじゃん。俺頼んで来てやるから」
言って踵を返すエドワードの首根っこをつかまえて引き戻す。
「君じゃあるまいし、太鼓が叩きたいわけじゃない」
「無理すんなよ」
無理なんかしてないのだがさすがに子供はそういう方向にしか頭がいかないらしい。
「…あんまり」
きょとんとしている子供の耳元に唇を寄せる。
「私以外の人間に肌を見せるようなら実力行使も考えるよ?」
ぴく、と一瞬肩を震わせて目を閉じてしまった少年はその瞳をゆっくりと開けると同時にみるみる赤くなった。
「…腕捲ったくらいで?」
「由々しき問題だと思うがね」
至極真面目に言えば彼の顔はどう見ても呆れていた。
「…なに考えてんの。だって腕捲らないと太鼓叩くのに布が邪魔だし。だいたいこの服着せたのあんたじゃん!」
言って浴衣の裾を自分で摘んで持ち上げるがそうすると生足が見えるからそういうことをするなと先ほど言ったのに、やっぱり全く理解されていない。
この話は終わりとばかりにすでに露店で買ったわたあめをぱくついているエドワードに背後から近寄るとそのまま片手で腰を抱え込んだ。
「うわ!…なんだよ!」
後ろから抱え上げられ地面に足の付かない彼が非難の顔を向けるのに微笑みで返すがエドワードにはうさんくさく見えるらしくあからさまに警戒心まるだしの声が返って来る。
「知っていたかね鋼の」
「…なにが」
「浴衣が右前なのは右手を突っ込みやすくするためという説もあるそうだよ」
「…っ!」
有言実行してやれば、その汗ばんだ肌に触れた途端その身が硬直した。
「ちょ…っ、やめ」
暴れても足が地面に付いてないのでどうも頼りなく。
「…それに」
「や、…」
耳朶を甘噛みしてやればその声はあっさり色を持つ。
「着せたのは私なのだから脱がすのも私だ」
だから安易に他の人の前で脱がないようにと耳元で囁いたが、すでに煽られてしまっていた彼に届いていたかどうかはわからなかった。
(終わり)
