黒の祭壇

黒の祭壇

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74(連載中)


「始めて聞いたわー。私の名前も居場所も知らないなんて。私何度もお話したと思うんですけど、お、じ、さ、ん」
 すさまじい毒に満ちた台詞がハクロに降りかかる。
 あ、とか、えとかいいつつ目を丸くしているハクロに近づくと、彼女は行儀も悪くテーブルに片足を置いて、ハクロを見下ろした。
「ドラクマと戦争になって、全ての郵便物が止まったときに、おじさん、軍人だからなんとかなるっていって連絡してきてくれたわよね。おばあちゃんが死んだって話は聞いたけど、遺産のことは言わなかったわ」
「そ、それは……わ、忘れてて」
 ハクロはしどろもどろになって言い訳をする。
「ほう。さっき君は、彼女の事は知らない、と言った気がするが」
 ロイがさらっとハクロの矛盾を指摘した。
「それどころか、おばあちゃんの借金は自分が代わりに払ったとか言ってたわよね」
「――借金!?」

 思わず声を上げた俺を見て、シャーロット……ウィンリィはにっこりと笑う。
 綺麗なポニーテールが揺れて、いつもの快活な彼女の安心させるような笑みに、気が抜けた。
「借金なんか、逆だろ。ばあちゃんの遺産、全部こいつが」
「なななな、何を言うんだエドワード! あれだけ世話してやった恩を忘れたか!」
 目を白黒させながら顔を真っ赤にして怒鳴るハクロは、すぐにウィンリィとロイに睨まれて口を閉じた。
「君が世話をした? ……よく言ってくれたな。私はおまえが彼にしたことを全部聞いたぞ。ハボックから」
 ロイの側に立ったウィンリィが、吐き捨てるように言う。
「エドの性格もやってきたことも、二週間この店でじーっくり見させて貰いました。おじさんのいう事なんて、全部嘘だってよくわかったわ」

 頭の中が混乱で意味が分からない。
 二人とハクロが何事かを言い合っている。

 ええと……シャーロットだと思ってたのは……どうやらシャーロットじゃなかったらしい。ウィンリィというらしい。そして、ばっちゃんの直系の孫とやらのようだ。
 大佐が二週間前に連れてきた彼女は、たしか事件の関係者で、匿ってくれと言うことではなかったか。
 そもそも、ばっちゃんの孫は、ドラクマにいるはずだ。戦争が終わったとはいえ、まだ一般人の行き来は制限されている。動かせるとしたら軍人ぐらいだろう、でもハクロには頼めない、と先日――

「あ」

 軍人。いるじゃねえか。ハクロよりも上に出世して、今や戦争の英雄となっている男が。俺の隣で、ハクロになんだか怖い台詞を吐いている男が。
「でも俺、ばっちゃんの事なんて一言も……」
 奴が戦争に行ったときは、まだばっちゃんは生きていた。ばっちゃんが死んだことは、ロイが帰ってきてから話したし、ハクロがオーナーだという話はしたが、それだけだ。
 孫娘を捜してくれなんて、一言も。
「……大将が言わなくても、あの人は調べますよ。そういう人だから」
 考え込むエドワードに声を掛けてくれたのは、ハボックだった。
 慌てて顔を上げると、向かいの席に座っているハボックが、煙草にいつの間にか火をつけている。
「ど、どういうことだよ、ハボックさんなんか知ってんのか」
 そうだった。この場所に呼ばれたって事は、この人も何か関係があるということだ。そもそも現在一番ばっちゃんの孫娘の事について詳しいのは彼のはず。
 隣の三人は未だ言い合いを続けている。エドワードは身を乗り出すと、小声でハボックに問いかけた。
「説明しろよ。なんかしってんだろ」
「一ヶ月くらい前に俺のところに連絡が来ましてね。自分がいなくなってから何があったのか吐け、っていうから全部話したんですよ。そしたら数日後には、ドラクマ行きの特殊パスを渡されましてね」
 ウィンリィ・ロックベル嬢を迎えにいったのだと、ハボックは言った。
 そして、事情を話し、彼女をアメストリス側まで連れて行き、ロイに会わせ、その先の展開はエドワードも知っての通り。
「なんでそこで、ウィンリィが偽名使ってこの店に来るんだよ」
「そこまでは知りませんよ。直接マスタング中将に聞いてみたらどうですか。……って、言っても今は聞ける雰囲気ではなさそうですが」
 ちらりと、二人で横を見る。

 三人の言い争いはヒートアップしていた。主にウインリィの顔が怖い。
 騙されていたと知った彼女の怒りは相当のようで、二週間一緒にいながら一度も見たこともないような顔をして、ハクロの耳を捻り上げていた。

 ――当分、終わる気配は、見えない。
 

(終わり)