黒の祭壇

黒の祭壇

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2(連載中)

   ハイロゥのトランプ。
 今から数百年前にトランプ好きの錬金術師がいた。その名をハイロゥ。
 彼はいろんな物質の作成時に使う錬成陣を描いたトランプを作るのが趣味で、ゲームにも使え、錬金術の勉強にもなるこのハイロゥトランプは様々な場所で使われたらしい。
 錬金術同士のゲームに使われたり、錬金術を教える学校での教材に使われたり。
 中でもタワーと呼ばれるゲームがもっとも流行った。
 トランプの中心に描かれた錬成陣から何が出来るかを解読し、お互いがその場にそのカードを出すことで、どちらが勝つかを競うのだ。
 一瞬にしてその錬成陣から何が出来るかを解読する能力と、錬成陣同士の優劣を判断する能力が競われたらしい。
 生涯に彼が作ったとされる自作のトランプの数は百セットと言われる。
 ハイロゥは一つとして同じトランプは作らなかったと言われ、同じスペードのAだからといって同じ錬成陣が書いてあるわけではない。
 唯一のそれを求めるトランプのコレクターも未だに多数存在するようだ。
 その内の一部の柄が複製され、今ではどこのおもちゃ屋でも購入することが出来るようになっている。




「でも、ハイロゥのトランプって市販品として広く売られてるっていうのに、そんなのが重要なのか?」
 わざわざ犯罪者のところから軍部に渡ってくるくらいに。
「馬鹿を言え、それは本物だぞ」
 男はコーヒーを二つ手にすると、給湯室から戻ってくる。
 一つをほら、と差し出され当たり前のように受け取りながら、それに慣れてしまっている自分を一寸反省した。
 いくらなんでも大佐のくせにあっさり人にコーヒーをいれすぎなのではあるまいか。ここはあいつの家ではなくて一応軍司令部なのだ。
 まあ、奴の家に行って珈琲を入れさせていることの方こそ問題な気がするが、そういう状態が発生するのはどういう状況の時か思い出すと頬が赤くなりそうだったので、やめた。
「市販されている奴ではなく、正真正銘ハイロゥが自分で作った物だ。多分この世に一つしかない」
「…………へー」
 ダイヤの3を手に取る。酢酸。
 面白くなって、散らばっているカードを一つ一つ並べる作業に戻った。
 どれもこれもエドワードにとっては簡単な錬成陣だけれども、こうして他人の錬成陣を何個も眺めることは勉強になる。
 それがカードのようなものになっているとちょっとしたゲーム感覚でなんだか楽しい。
 ハイロゥがトランプにこだわった理由が分かった気がした。

「なんか、入門編だな」
 どの元素も、とりたてて難しい物ではない。少し勉強すれば分かるレベルだろう。
 どんな錬成陣が出てくるのかと正直期待していたエドワードは一寸残念に思った。

(終わり)