黒の祭壇

黒の祭壇

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23(連載中)

「見つかった?!」
 吉報を知らせてくれた探偵を大慌てで呼び出して部屋に引きずり込むと、エドワードはお茶も出さずに叫んだ。
 親戚探しも一年になるとすでに半分惰性になっていて、どうせ駄目だろうと思っていただけに、この知らせは喜びよりも現実味のなさが先に立った。
 思わず大声をあげたエドワードに対して、探偵はタバコを口に銜えたまま、ぽりぽりと頭を掻く。
「すいませんね、六ヶ月もかかりまして」
「……」
 実は来月から他の会社にしようと思っていましたなどとはいえず、曖昧に笑う。
 茶色がかった金髪の長身な若い探偵さんは、ハボックといった。
 優秀なのかそうじゃないのかいつも飄々としているのでよくわからなかったが、さすが姉ちゃん達が聞き取り調査をしただけある探偵所だったらしい。
「これが報告書」
 テーブルに置かれた封筒は思ったより薄い。
「あんなに悩んだ相手の報告って、こんなにあっけなくて短いのか……」
「お望みなら、奴の生まれた時からの記録をつけてお渡ししてもいいですけどね、面白いもんはないですよ」
 封筒の中から書類を取り出し、目を通すエドワードに、聞いているのかいないのか、探偵は調査結果を報告し始める。
「結局、探しはしましたが、お孫さんとやらは見つけられなくて、遠縁の親戚一人だけなんですがね。一人だけでも見つかったわけですし、このまま調査を続けさせてもらえればお孫さんも見つかるかもしれません」
 もちろんお金ください。と遠慮一つなく言われてがっくりしたが、そんなずうずうしくも素直に誤魔化さないところもエドワードの気に入っている所以だった。
「……軍人、なのか」
 調査報告書には、該当者の名前、そして職業と写真がある。
 肩書きのところで手が止まった。
 複雑そうな顔をするエドワードに、ハボックは頷くとタバコに火をつける。
「ここの先代楼主の兄の孫です。兄夫婦とその子供は既に死んでいて、行方不明のお孫さんからすればいとこになりますね」
「……この人、軍人でしかも幹部じゃねえか、なんで」
「出生の欄を見れば書いてはありますけど、幼いときに両親が死んで、軍人の家に引き取られたみたいですね」
「この軍人さん、ばっちゃんのことは知ってるのか?」
「知らないでしょうね。知ってたら確実に連絡取ってきたと思いますよ。この店欲しがって」
「え?」
 思わず顔を上げたエドワードにハボックは火憎げに笑う。
「つまり、そういう奴なんですよこのハクロって軍人は」



「同じ軍人でもマスタング大佐だったらなあ」
「……へ?」
 エドワードが入れた珈琲のおかわりなどを要求しながら、ハボックはため息をついて首を大げさに振った。
「あの人だったら、みんながいいようにしてくれるだろうに」
「知ってん、の?」
「まあ、ちょっとな」
 言い過ぎた、と思ったのか、頬をぽりぽりと掻いて気まずそうな顔をされてしまう。
 思わず身を乗り出してしまったのに、言いたくないです、という顔をされてしまうとこれ以上突っ込めない。
 自分以外で奴のことを知っている人は初めてだったので、本当なら聞きたいことがうずうずしていた。
 今どうしてるのか、元気なのか、生きてるのか、怪我してないか。
 でも答えてくれそうにない。首ねっこ引っつかんで蹴り飛ばして脅迫すれば喋ってくれるだろうか。
(……いかん、考えが不穏に…)
 そんじょそこらのガキ相手なら負けるとは思っていないが、ハボックに勝てるとは思えない。ガタイが違いすぎる。
 目の前のお菓子に手を出せないで、涎だけ垂らすしかないようなどうしようもない苛立ちを、こぶしを握って押さえ込む。
 ハボックは途中で話を切り替えたが、エドワードの耳には半分しか入らなかった。
 よりにもよっておっさんの名前を出すからだ。名前聞いただけで頭が全部そっちに持っていかれるんだから余計なこといわなきゃいいのにと理不尽な怒りに駆られて睨んでしまう。
 ……ああ、でも。
 たしかにあいつが、ばっちゃんの親戚だったりしたならば、最高だったのに。

(終わり)