6(連載中)
力の限りに押し戻すと、その腕から逃げ出す。
二メートルぐらい後に飛び退いて、大佐を見れば、男は唖然とエドワードを見ていた。
「だ、め」
ぶんぶん首を振る。気を抜けば涙が出そうだった。火照った頬はまだ戻らない。だからそれを忘れようとしつこいぐらいに首を振った。
「やっぱだめ!大佐だけは駄目だ!ハボック少尉にする!」
「――――――――――な!」
目の前の男の衝撃はいかばかりのものか。
だが構っている時間はない。
とにかく、ここから、逃げないと逃げないとと。
「やっぱりあんただけは駄目!」
扉をくぐると自然大佐の横をすり抜けなければいけないので、脱兎の如くに執務室の窓際に駆け寄ると、そのまま窓枠に飛び乗った。
「じゃーな!大佐!報告書チェックしたら呼んで!」
そのまま一回だけ振り返って、窓から飛び降りる。
あんなの、全然癒されない。
恥ずかしくて熱くて、熱が出るだけだ。
幸せとか、落ち着くなんて無縁だ。あの男の半径一メートル以内に入った瞬間、思考があれほど掻き乱されるのなら、遠巻きに見ていた方が精神衛生上いいに決まってる。
それこそ何かから逃げ出すように走り、景色を置いていくほどの速度を出して、宿に走り逃げた。
報告書チェックをしたら、きっと宿に電話がかかってくる。呼んで、といったのは自分だがなんだか行きたくないから弟に行って貰うことにしよう。
最後に見えた男は、途方に暮れたような顔をしていたことに罪悪感がちくりと鳴ったが、ぎゅうと拳を握って、心で謝った。
(終わり)
