日焼け(前)
ぺたぺたと、背中に手を当てられる度、冷たさと同時に痛みが走る。
「痛い、大佐…もっと優しくできねえの?」
床にぺたりと座り込んだまま、背中越しに言えば、一応上司は溜息をついて、あのねえ、と言った。
「あれだけ日に焼けるから日焼け止めを塗れと言ったのに、無視して遊ぶから」
「だってこんなに焼けるなんて思わなかったんだよ」
今更軟膏塗ったって、後の祭りだとぶつぶつ言われ、さすがにちょっとだけしゅんとなる。
そう言いながらも背中に塗ってくれている手つきは優しいので、口には出さないけど感謝はしていたりする。
「君は夏の日差しを馬鹿にしすぎだ――――――――――終わったぞ」
「あ、ありが………うひゃぁ!」
つつつつ、と背骨のラインを指でなぞられて思わず変な声が漏れた。
背中を一瞬のけぞらせて、痛みとむず痒さに耐える。
「…………鋼、の?」
「いた…」
剥けた肌の赤い部分を思いっきり撫でられ、ぴりりと焼けつく痛みが走った。
「………」
なんだか、背後で唾を飲み込む音がする。
「っ…う~」
じんじんと背中から伝わってくるひりひりした感覚を抑える為にぎゅうと腕を押さえていると、する、と背後から大佐の腕が伸びてきた。
「…え?」
明確に、その腕は脇の下を通り、胸元に伸びていく。
「え、え、大佐、まさか」
「そのまさか。君があまりにイイ声を出すから」
まじかよ。
ぐい、と引かれ、背後で座る大佐の胸に背中が押しつけられる。
「い、痛い、痛いって!」
背中が擦れて辛いからやめろと叫べば流石に大佐も、あ、と言って手を離した。
「そうか…ついつい」
「ついついじゃなくて、ああ、いたた。こういうの禁止、今日は勘弁」
今は扇風機の風が当たるだけでも背中が痛い。数日もすればきっと皮が剥けるのだ。
やっと不埒な腕から逃れて、じりじりとした熱を逃がすためにううう、とひたすら耐える。
すっかり背後の大佐のことは忘れていた俺に、また腕が伸びてきた。
「ちょ…!馬鹿、やめろって言ってるのに!」
本気で痛いんだから、勘弁して欲しい。
「うん、だから」
「?」
中腰の大佐が、脇を抱え上げる。え、と呟いた次の瞬間には俯せに床に転がされて。
ああ、冷たい床が気持ちいいな、と思ったのはほんの数秒。
「後ろからなら、痛くないだろうと思って」
「――――――――――!」
反り返り掛けた背中を、ぽん、と叩かれて、痛みに萎えて又床に沈没する。
「ああ、これはいいな」
「な、い、痛…」
「あまり抵抗するなら、背中を一撫でするよ?」
ぞっとするような事を言われて、瞬間凍り付いた。
「触られたくなかったら、じっとしてればいい」
倒れ込んだ身体に覆い被さる大佐。
それでも背中には触らないそのぎりぎりの角度が又、いやらしいと思う。
「う、うそ」
だが、どう考えても、伸びてきた手は本気で。
抵抗しようとすれば、ふう、と背中に吐息をかけられ悲鳴が上がるが、多分男はそれすらも楽しんでいる。エドワードが声を上げる度に、男の息が荒くなって手の動きは繊細になった。
「……っ!」
もうここまで来ると、絶対にこの男は止まるまい。
ああ、こんな男にあんなこと頼んだ俺が馬鹿だったと、後悔したときにはもう、すっかり身体は男の意のままに喘ぐ人形だった。
(終わり)
